2013年3月31日日曜日

途上国×技術×キャリア その6 -進路-


前回の続き。
今回で『途上国×技術×キャリア』は最後である。今回のエントリーでは夢を実現するためのスキルを得るために、私がどのような視点で就職活動をしたのかを書こうと思う。特に今回は2つの観点から話を進めて行く。話の流れはまずはざっくりと一般論を述べた後に具体的に自分がどう考え、行動したのかを書いていく。

1.   昼の仕事と夜の仕事
昼の仕事と夜の仕事という言葉がある。私の理解でざっくり説明すると、昼の仕事は所謂本業であり、一方夜の仕事は本業ではアプローチできない、夢にリンクしている分野を本業以外の時間を使ってする仕事(活動)である。さて、私はこの考え方を就職活動する大分前から知っていたので、就職活動の際に大いに役に立った。では、どのように役立ったのか?

それは、本業の位置づけが明確になった事である。どうしても本業と夢(やりたい事)を密接に結びつけてしまう思考が働いてしまうかもしれないが、実際にそれは難しいケースが多い。例えば、その活動はすぐに収益化するのが難しいかもしれないし、またはビジネスとしては回らない領域かもしれないからだ。このように考えると、必然とこのような分野は夜の仕事でやろうという事になり、一方で昼の仕事ではそこでしかできないインパクトの大きい仕事をやろうという発想になる。

さて、具体的に自分が考えた思考プロセスは以下の通りである。
適正技術のような発展途上国の現場で使用される技術(Low endの技術)に関わりたいと思っていたが、適正技術に関してはこのエントリーで述べた通りOut to In (先進国から途上国へ) ではなく適正技術はなるべく発展途上国の中から生み出すようにならなければ今後自立して発展できないのではないかと考えていた。当然技術レベルによってはこの発想は当てはまらず、Out to Inという考えも必要となる。さて、このような視点に立った時、どのように関わるのかが大きなポイントになる。ここに関しては色々と考え方があると思うが、私個人の考えは、現地の人々ができる仕事は現地の人々がやるべきで、できない部分こそ自分がやるべきだと考えた。さて、このように考えた時、Outの私が率先して昼の仕事として適正技術に関わる必然性が見えてこなかった。なぜなら、このエントリーで書いた通り、適正技術は現場から生まれており、そして現地の人々がそれを運営する事ができると思うからである。そこで、適正技術は夜の仕事(ボランティア)として関わっていきたいと考えている(今のところ)。具体的にどう関わっていくかはまだ検討中であるが、もちろんサプライチェーン/オペレーションを軸に関わっていく予定である。
では、昼の仕事(本業)では何をするのか?

発展途上国×技術に関して、最初に興味分野として適正技術からスタートしたが、就職活動を機にゼロベースで考えてみると適正技術と対極に位置しているような高度な技術(例えば、車、家電製品等)も発展途上国に貢献している事が分かり、この分野がまさに私が率先して関わるべきだと分かった。また、ここで学んだスキル(私の場合はサプライチェーンのスキル)は夜の仕事にも応用できるはずである。

以下、昼の仕事と夜の仕事についてまとめた図である。
図1. 昼の仕事と夜の仕事

昼の仕事に関しては、以下の項目で詳しく見て行く。

2.   職種と業界
新卒で入社するということはどういうことなのか?今までの経験を一般化して改めて考えてみると、新卒入社には以下の2つの意味があると考えている。

新卒入社とは、『夢を実現する為のスキルを得る事』と『得たスキルを使って夢を実現する場所』である。
当然、大きな夢を達成するにはそれなりのスキルが要求される。それは社会に出るまでに得た知識、スキルでは届かないレベルがほとんどである。よって、社会に出た後は必要なスキルを得られるように訓練する必要がある。さて、スキルを得る為には、自分なりにスキルを定義し(スキルの定義は場所によって変わる可能性がある)、それが最も得られやすい場所で訓練するのが一番である。
また、仮にスキルが得られたとしても、それを最大限発揮して夢の実現に前進できなければ宝の持ち腐れになってしまう。よって、得られたスキルを発揮して最も影響を与えられる場所を選定して、働く事が重要になってくる。
この2つの言葉をざっくり言い換えると、

『夢を実現する為のスキルを得る事』=『職種』
『得たスキルを使って夢を実現する場所』= 『業種』

になるのではないかと考えている。

さて、ここからは時系列が前回のエントリーに戻って11月からどのように上記の職種と業種を意識して就職活動をしたのかについて書いていく。

11月にサプライチェーンが自分の得たいスキルであると分かり、本格的に就職活動を始めた12月にはサプライチェーンという職種がある会社のリサーチを行った。その結果、サプライチェーンと言っても会社によって定義が異なり私が想定しているサプライチェーンの業務(購買からロジスティックスを見る事ができる広義の意味のサプライチェーン)を行えそうな会社は数社のみであった。それは当然業種にも依存し、部品、材料点数の少ないメーカー(消費財メーカー)であればあるほど、一人でその製品のサプライチェーンを見る事ができるが、部品、材料点数の多い重工業(車等)になれば、一人で見るのは困難になり、部署で分断される。

このように私は特に業界に拘りはなく、どちらかというと高度な技術力が必要とされる業界が良いのではないかというざっくりしたレベルであった。この考え方の背景にあるのは、『スキルさえ身につければ行きたい業界、会社にどこでも転職できる』というものであった。よって、私は業界で会社を見るというよりは私がイメージするサプライチェーンのスキルが早期に見に付けられるという観点から会社選びをした。つまり職種という切り口から会社を比較した。



以下は、職種と業種の二軸から志望企業をまとめたマトリックスである。実際にこのように体系化できたのは2月になってからである。

図2. 職種と業種

それぞれの軸について説明すると、職種の軸(横軸)に関しては上記で述べた通り、私が考えるサプライチェーンのスキルを早期に身に付けられると期待されるほど、その会社は右に位置する。この情報収集は会社説明会、OB訪問等を利用した。業種の軸(縦軸)に関しては、発展途上国(特にアフリカ)に貢献できる製造業の業界と定義した。上に行けば行くほど、発展途上国の貢献度が大きく、かつ技術レベルも高くなる事を意味している。繰り返しになるが、業種に関しては新卒でなくても一旦スキルを身に付ける事ができれば、そのスキルが発揮でき、かつ行きたい好きな業界に行けると考えていたため、横軸の職種の方が縦軸の業界軸よりも優先順位が高かった。また、当然マトリックスの右上であればあるほど、得たいサプライチェーンのスキルが早期に見に着く事が期待され、かつそのスキルを発揮したい場所で発揮できるというまさに理想の会社である事が分かる。つまり、このゾーンが第一志望群の会社となる。私の場合はたまたま第一志望群に入る会社は一社のみであった。

以上、私がどのように将来のキャリアを考えてきたかを6つのエントリーで述べてきた。明日からいよいよ社会人となるわけだが、今まで考えてきた事がどのように変化するのか、自分自身楽しみである。


2013年1月5日土曜日

途上国×技術×キャリア その5 -決断-


前回の続き。
今回は夢を実現する為の基軸を見つけるまでの軌跡を書く。


6.  軸の決定

6.1 試行錯誤の2ヶ月
2回目のケニアからの帰国でデルフト工科大学への留学への意欲はなくなってしまった。その主な原因は、プロダクトのOut Inには限界があり、自分はもっと現場に近いアプローチをしたいという想いからであった。
さて、それでも今まで1年以上留学を志して来て、その目標を失った時の喪失感はとてつもなく大きかった。

その結果、自分の性格上、常に将来の目標を設定しておかないと気が済まない性格であるゆえ、ロジカルではないが色々とやりたいベースで恐怖感に苛まれ強引に将来のやりたい事を設定していった。(自然と)

起業 201110月中旬
まずは、単純にやっていた炭プロジェクトで起業したいと思った。ケニアから帰国したばかり、金銭感覚もまだ日本に慣れていない状態で、まだ気持ちも熱かった。また、ケニアで特別な体験をしていたという想いもあり、日本で就職したくない(普通になりたくない)と思っていたのもその一因であった。

しかし、この事を母親に訴えたが、母親の一言で冷静になった。
「高校から大学まで借りている奨学金、誰が払うの?」

製品開発と就職活動 201110月中旬- 11月中旬

ケニアまでの道のり 201110月中旬- 11月上旬
確かに奨学金は自分が働いて返さなければならない。この瞬間、就職という言葉が浮かんだ。3-5年ほど働いて奨学金のお金を返済して、さっさとケニアに飛んで起業しようと思っていたが、お金の為だけ働くのは効率的ではないと思った。就職するなら、お金を稼ぐだけではなく、何らかしらの役立つスキルが早期に見に付ける事が重要だと考えたからだ。さて、そのスキルとはデザインよりも現場により近く、必要とされているエンジニアリングスキル。そして、奨学金を返し終える期間(3-5)の短期間でエンジニアの基礎的なスキルを学ぶ事ができる企業で働こうと考えた。ちなみに、その時の自分の技術的スキルはほぼゼロ。

奨学金を返し終わり、かつエンジニアをある程度身に付けた後は、起業の前にケニアの技術系の会社(Kickstartd.light etc)に転職しようと考えていた。これは、この時既に少し冷静になっていて、炭ビジネス等で直ぐに生活できるほどの利益を稼げると思っていなかったからである。そこで、ケニアでの昼の仕事で技術系の仕事をしつつ、同時に夜の仕事で起業の種を蒔き、芽を育てようという戦略で考えていた。ただ、まだ自分がエンジニアとして生きて行く必然性を見いだせないままであり、ふわふわしていた。

そして、これが当時(2011年10月10日)作った資料である。


そうと決めれば、どの企業がエンジニアのスキルを早期に見に付けるのが最適であるかと考えるようになった。特に、ケニアで今後働く事を踏まえ、グローバルな環境で働ける企業に絞る事にした。
次に、たまたま大学の先輩がある技術系のグローバル企業で働いていた為、その先輩とその友人から色々と話を聞く事にした。話を聞き、企業によって若手のエンジニアを育成する様々な研修制度がある事が分かり、それを一つの企業の選択方法とする事にした。

工場見学 201111月中旬
それからリサーチを重ね、興味があったある企業の工場見学をする事を思い立った。それは現場に行けばなんとなくイメージがつかめると同時に、アピールになるのではと思ったからだった。さて、人事の人にメールをすると、たまたま運良くその社員が工場見学する予定があり、自分もそれに参加出来る事ができた。
そして、なんとその後、同じ大学出身という事もあり技術開発と製造の部長クラスのお二方とお会いする機会を頂いた。こんな学生一人になんとも贅沢な一時であった。当然関心は技術開発の方であったが、製造部長のこれまでのユニークな職歴が頭に残り、その後研究室に帰ってから何となく、その製造の職種説明を見る事にした。
それには、プロダクトを最適に生産するには購買、ロジスティックス、製造、生産管理、ロジスティックス等の各部署を有機的に繋がらなければならず、それを管理するのが『サプライチェーン』という職種だと書かれていた。

これを見た瞬間、ケニアでの出来事がフラッシュバックし、これが自分の求めるスキルだと直感でわかった。


6.2 一級品の武器
サプライチェーンと就職活動 201111月後半

- 原体験
Webでサプライチェーンという職種を知った時に、これが夢を実現するスキルであると直感でわかったのはケニアで2つの原体験に直面したからであった。

1.   ソーラーランタンの故障
もともとケニアに行ったのはソーラーランタンがどのように人々の生活を変えているのかを調査する事が目的であった。これは当時適正技術という軸で自分の道を開拓したいと思っており、より現状を知るには現場に赴くのが一番だと思ったからであった。
さて、具体的な話はその4で述べているが、ここで直面した原体験とは、ケニアの非電化地域に導入されたソーラーランタンが初期不良により壊れてしまったという事実だった。
このソーラーランタンはデザインが逸材で国際的なコンペティションで賞をもらっていた為、当時の自分が考えていたデザイン神話に一石を投じる出来事だった。この時は単に品質管理は重要だと考えていたが、
今はこのサプライチェーンという言葉と有機的に結びつき、『デザイナー、エンジニアが幾ら完璧にプロダクト設計したとしても、品質管理が疎かになってしまったら消費者を満足させる事ができない』と考えるようになった。

2.   炭を生産する為の仕組み創り
ソーラーランタンが壊れてしまった後、メインの活動として開始したのがMITで開発された農業廃材から炭を作る技術を普及する事だった。最初は、かの有名なMITで開発された技術なんだから全てが完成されており、技術の普及も簡単にできるだろうと高を括っていた。また、世界を変えるデザインにも紹介されていたのもその一因であった。

しかし、西ケニアの非電化地域に導入してみると、様々な問題に直面した。まず、大きな原体験はそれまで生産技術で完結すると思っていたが、当然それだけでは炭を生産出来ない事を実感した。農業廃材は確かに西ケニアには大量にあるが、季節、距離等から廃材を大量に入手できる事が難しい環境である事が分かった。(詳しくはこちらから) 結局、廃材を安定的に入手する為、廃材を大量に保有している製糖会社のマネジャーとアポを取り、先方にメリットを訴求し、廃材を卸してくれるような仕組みを構築する事ができた。
次に生産技術自体も現地にローカライゼーションされていない事が判明した。例えば、キャッサバは現地で食べ物として扱われている為、炭の材料として使用するには抵抗がある、ドラム缶は初期コストが高いうえ、村では手に入らないetc

この実体験もサプライチェーンという言葉と結びつき、『生産技術だけでは物作りは完結せず、消費者を満足させるには現場にフィットした生産体制を築き上げる必要がある』と考えるようになった。

さらに、これらの実体験から、品質管理、購買のピースが欠けてもダメだが、それ以外の他の要素(製造、ロジスティックス、アフターサービス、生産管理等)も欠けても全体として完成されず、消費者満足度の減少に繋がるのではと考えた。つまり、自分はこれらのどれかの要素から貢献するのではなく、サプライチェーンという全体の視点からこれらの要素を管理したいと思うようになった。なぜなら、幾ら自分がある要素(例えば品質管理)Valueを提供したとしても、他の要素が欠けてしまう可能性があるからである。

まとめると、この2つのケニアでの原体験からサプライチェーンに最も潜在的に問題意識を持っていた部分であり、これからこれを自分の専門性にしたいと思った。


【まとめ】
起業、就活?⇒留学が消えた事からその埋め合わせをしようと、とりあえずゴール設定をして、行動を起こす。
サプライチェーンとの出会い⇒ケニアでの2つの原体験からこれが自分の専門性にすべきだと直感で分かった。


次回、最終回
こうご期待!


P.S. 駅伝とサプライチェーン(おまけ)
ここからは妄想です。
さて、このサプライチェーンを単純化し駅伝(馴染みが深い箱根駅伝)で例えると分かりやすいと思う。

駅伝のゴールは総合優勝である。
総合優勝する為に、監督はそれぞれのコースの特徴を踏まえ、持っているリソース(選手)から選手の特性、体調等を踏まえ走者を決めていく。例え5区の山登りで区間新記録の偉業を成し遂げても、次の区間でタスキが途切れたら、この総合優勝は叶わない。その為、監督は全体を見て、タスキがどうやったら一番で最後まで繋がるかを考える必要がある。

一方、サプライチェーンのゴールは最終需要(消費)に対して、小売・中間流通・製造の供給の連鎖の全体最適を図ることで、利益を最大化する事である。
全体最適をする為には、それぞれの要所の特徴を捉え、限りあるリソースから、資金、人材等を分配しなければならない。品質が高く、納期が短く、価格を安価であれば、消費者満足度に繋がると同時に、競合との競争優位に立つ事ができ、持続的にビジネスを展開できる可能性がある。しかし、サプライチェーンの各要素どれか一つでも欠けてしまうと、上記のケニアの例にようになってしまう。さらに、駅伝とは違って、業種、市場の動き、技術革新等から最適解は常に変化している。
この辺の話は妄想レベルで話しているので、実際に働いてみてどこまでズレがあるのかを確かめて行きたいと思います。

2012年10月28日日曜日

途上国×技術×キャリア その4 - 混乱-

前回の続き。
今回は日本に戻ってから2回目のケニア滞在までの約半年の軌跡ついて書く。

【危機感】
ケニアから日本に戻ってから、私はあるスキルを身につけなければならないと考えていた。それは、物を作る為のエンジニアとしてのスキルであった。それを想い起こさせたキッカケが2つある。

- ソーラーランタンの修理
ケニアの非電化地域に導入されたソーラーランタンが初期不良によって、機能しなくなった事は前回のエントリーで述べたが、この初期不良は現地で修理できるのではと思い、問題がどこにあるのかを調べる事にした。しかし、どうやらバッテリーに問題がある事が分かったが、エンジニアとしてのスキル不足のため具体的にどこがどのように不具合が生じているのかが分からなかった。その結果、こんなシンプルな機構のランタンでさえ、自分の力で直す事ができず、自己嫌悪に陥った。

- デルフト工学大学入学の条件
デルフト工科大学に見学に行った際に、入試課の担当者の方から言われたデザイン工学専攻に入る二つの2つの方法。1つ目はデザインの専門性を持って入る方法。2つ目は工学の専門特に機械工学。自分の専門は一応電気関係であったが、当時の研究分野が量子工学であったため担当者から残念ながらそれでは入学するのは難しそうだねと言われた。これは非常に悔しかった。専攻のみでその人のスキルを測られるものではないと思っていたし、かつもっと自由度の高い大学であると思っていたのでかなり失望した。それでも自分の夢を実現する為、何としてもこの大学に入学しなければと思っていた。

以上、上記2つの経験から日本に帰国してから特にエンジニアのスキルを身に付けようと思った。そこで、帰国してからはTOEFLの勉強はもちろんながら、手始めにCAD等の勉強を始めた。

4. FabLabとの出会い 20114-20117月 -Fablabに関する資料はこちら




ちょうどこの頃、今は同志であり、尊敬している青木翔平と出会った。彼はもともとFabLabに着目していて、私もその影響を受けてFabLabの存在を知る事になった。まだ、その時はFabLabのコンセプトを上手く理解できていなかった。しかし、FabLabの拠点である鎌倉でFabLabマスターである慶應大学の田中浩也先生と議論し、FabLabのコンセプトに共感した。

Fablabのビジョン
個人が、自らの必要性や欲求に応じて、そうした「もの」を自分(たち)自身で作り出せるようになるような社会の実現

特に田中先生が説明してくれたインドにあるFabLabの事例は現地の人々が直面している問題をFabLabという物づくりのインフラを利用して問題解決した好例であった。今まで適正技術は主に先進国で開発され途上国に導入されるのが当たり前だと思っていのたで、この考えは非常に新鮮であり、新しい可能性を自分に示唆してくれた。この考え自体は後々自分の進路に大きな影響を与える事になった。

このコンセプトに共感し、かつエンジニアとしての物づくりのスキルを高めたいと思った私は青木翔平と一緒にFabLabを通して、物づくりの価値観、スキルを学ぶ事にした。

そして、私がファイナルプロジェクトとして製作したものがこのソーラーランタン。色々と考えたがやっぱり自分の原点であるケニアでの経験を活かす事にした。この頃から、ちょっとずつ関心事は“持続性”というキーワードにシフトしてきた。

5.   ケニア滞在(2回目) 20118-20119
FabLabのファイナルプロジェクトのプレゼンテーションの数日後、私は2回目のケニア滞在する事になっていた。期間はちょうど2ヶ月間。今回の目的は炭プロジェクトのフォローアップであった。
1回目のケニア滞在では既に約半年間滞在していたため、新たな発見、気付きはそこまでないと思っていたが、この2回目の滞在が3つの経験から私の人生の方向性大きく変える事になった。

5.1技術のローカライゼーション
81日にケニアに到着し、さっそく炭を生産している女性達のインタビューを行った。その結果、色々と問題がありプロジェクトが上手く回っていない事が分かった。問題は以下の通りであった。

- ドラム缶
生産方法は現地での炭チームのメンバーがバラバラに住んでいた為、近い人同士でチームを組んでその場所で生産するという方式を取っていた。その為、新たな人を巻き込み新たなチームを発足させようとすると農業廃材を炭化するためのドラム缶が必要となるが、その価格が約2,000円と村での平均月収に匹敵し、購入する事が不可能となっていた。

- コンプレッサー
チームを組んだものの、コンプレッサーが数に限りがあり、炭の生産が非効率であった。コンプレッサーの値段もある程度するため、新たに投資するインセンティブはなかった。

- キャッサバ
炭を作る材料として農業廃材以外に接着剤として機能するキャッサバを利用していたが、キャッサバの価格は変動し、季節によって入手する事が難しくなるという問題があった。

上記のように、ケニア1回目では想定していない問題が顕在化した。
さて、この問題に対する解決策は思わぬ形でやってきた。それはあるケニア人の一言であった。

『キャッサバじゃなくて、粘土でできないかな?』

今まで、MITで開発された手法が最善であるという前提でプロジェクトを進めていたが、この一言で実はMITの技術は完璧ではなく、まだ発展途上であるという認識に変わった。そこで、行った事は現地の材料を用いて所謂技術のローカライゼーションをする事だった。

その結果、ドラム缶は現地で生産されているレンガを用いて釜戸を作る事により価格を1/5にし、コンプレッサーもさらにシンプルにして価格を下げ事に成功した。



この経験は私に大きなインパクトをもたらした。
世界を変えるデザインに載っている適正技術の中でも最もローカライゼーションされていると思われたこの炭の技術でさえ完璧ではないのなら、ソーラーランタンも含め他の適正技術も多くはコンセプトモデルで、そこから現地にフィットする為に改良を加えるためのローカライゼーションが必要ではないのかと思うようになった。

5.2 品質管理
ソーラーランタンに初期不良がある事は既に述べたが、実は最初に導入されたランタンは
地理的に近いルワンダの工場で作られたものだった。ルワンダはイメージ的に工場での品質管理になんとなく問題がありそうだなと思っていたので、次に新しく交換品として中国の工場で生産されたランタンが導入されれば問題は解決できると楽観視していた。しかし、私が日本に帰国後に導入されたこの中国で生産されたランタンは私がケニアに戻ってくる頃には同じような初期不良によって機能しなくなっていた。
またか!正直落胆した。このランタンのデザインは非常に洗練されており、デザインコンペでも賞をもらっているほどであった。しかし、それが上手く生産を通して、具現化されていないという現実を目の当たりにした。これでは幾らデザイナーやエンジニアが良いものをデザインしても品質が悪ければ当然ながらエンドユーザーを満足させる事ができないと考えた。

※現在は、別の会社の高品質なソーラーランタンが導入され、人々の生活を劇的に変えている。

5.3 グラスルーツイノベーション
ソーラーランタンの品質問題を抱えてつつ、ナイロビで出会ったのがケニア人が現地でソーラーランタンを生産する団体(SDFA)である。詳しくはこのエントリー(現場からの訂正技術)で述べているが、現地の人々の手によって生活を豊かにする技術を開発できる可能性がある事を実感した。これは先に述べたFablabのビジョンに繋がって来る話だ。

グラスルーツイノベーションという言葉は、株式会社Granmaが指摘している言葉で、インド等のアジア諸国で現地の起業家が現場から技術を開発してイノベーションを起こしているものである。実際にこの動きがアフリカで始まっている。

上記の3つの経験を基に考えた適正技術のあり方について。



以上、この3つの経験から、仮にデザイン工学に関するスキルを身につけて、開発したとしても、本当に必要としている人々の生活を変える事はなく、自己満足に終わる可能性が高いのではないかと思うようになった。それ以上に、このような技術は既に上で述べたソーラーランタンの事例を始め、現場レベルで誕生している事を知り、ますます私がデザイン・開発する必然性を感じなくなってしまった
結果として、この疑問からデルフト工科大学でデザイン工学を学んで適正技術をデザイン・開発するという選択肢はなくなってしまった。

今まで留学を目指して頑張ってきたが、それがなくなってしまった今自分が今後どのような道を歩み途上国貢献すべきなのか?本当にやりたい事は何なのか? 分からなくなり、試行錯誤の2ヶ月間が幕を開ける事になった。

【まとめ】
- ケニア、オランダ滞在⇒エンジニアのスキル不足を痛感
- Fablabとの出会い⇒途上国の人々が現地で物づくりをする事の可能性の示唆
- 2回目のケニア滞在⇒先進国でデザイン・開発された適正技術は途上国に上手くフィットしていない、理想的なのは現地の人々が作る事であるという想いから、自分が適正技術をデザイン・開発するという進路=デルフト工科大学への留学がなくなる。